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ある日のパン屋


女「僕は焼きたてサクふわのクロワッサン!今日はお客さんいっぱいだな!早く買ってもらえるといいな!」


男「ちょっとまった」


女「君はウインナーロール!どうしたんだい?うかないパンをして。」


男「むしろ笑ったパンをしてるクロワッサンの方がどうかしている。一体何がそんなに嬉しいのかね?」


女「そりゃあおいしく焼いてもらったんだから、おいしく食べてもらえるお客さんに買ってもらえるんだよ!こんなに嬉しいことは無いじゃないか!」


男「クロワッサン、君はまだ焼きたてだ。生まれて5分といったところだろう。さぞ美味しいに違いない。表面はパリサクで中はふわっふわなんだろうね。」


女「そうだよ!一口目からほっぺたが落ちるに違いないよ!なんたって僕はクロワッサンだからね!」


男「そう、俺もウインナーロール。パリっと歯ごたえのジューシーウインナーをふわふわロールパンで挟んだ至高の一品。その歯ごたえのギャップと溢れる肉汁が客を虜にして離さない。・・・いや、離さなかった。」


女「え?離さないんでしょ?ウインナーロールだってとても美味しいパンなんでしょ?なんでそんなに悲しそうなの?」


男「気づかないのかね?君と私との違いに?」


女「違い?一体何の違いがあるっていうんだい?まさかウインナーがあるかないか、なんて言うつもりじゃないだろうね?」


男「もちろん違う。そうか、まあ無理も無い。君はまだ焼かれて間もないパンなのだからね。」


女「もったいぶらずに教えておくれよ!ウインナーロール!」


男「時間だ!時間が違うのだよクロワッサン!私はすでに、焼かれてから2時間も経っているんだ!熱さも!歯ごたえも!ふわふわ感すらも!もう私には手の届かない幻想にすぎない!」


女「そ、そんなことないよ!そんなすぐに美味しさが失われるなんてことないよ!きっとまだまだ美味しいに違いないよ!」


男「いいや!君はまだ熱々でフワフワじゃないか!だがじきにわかる!そんな馬鹿げた考えなんてすぐに捨ててしまいたくなるのさ!もういい、私はあきらめたんだ。このまま閉店までトレーの上で終わるパン生だったんだ。」


女「そんな・・・あきらめちゃ、だめだよウインナーロール。」


男「もういいんだクロワッサン。君の気持ちはありがたくパンに挟んでおくさ。ほら、お迎えだ。君にトングが向いている。」


女「僕!おいしく食べられるから!」


男「ああ、行ってこい!クロワッサン!」

 

 

 

男2「あ、やべ、クロワッサン落としちった。店員さーん、すみません落としちゃいました。」


女2「ああ大丈夫ですよ。他のをおとりください。」


男2「あーあ、焼きたてラストだったのに。まあいいや、しなびたウインナーロール好きなんだよね俺。レンチンで最高にうめえ。店員さん、これで。」


女2「はい!ウインナーロールありがとうございます!」

 

 

 

おわり

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