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神様の価値


男「はあ、こまったねえ。どうにもいい言葉がでてきやしない。以前はこう、もっと湧き出
るようにいろんな言葉が頭に浮かんだもんだけどねえ。歌の神様、なんてもんがいるなら
ちょいと降りてきてほしいもんだ。」
女「やっほーーー!!!いいええーーーいい!!呼んだーー??」
男「おまいさん、どこの子だい?迷子だったら、交番に行っとくれ。あたしゃ忙しいんだ。
それにしても元気な迷子がいたもんだね。少し分けてほしいくらいだよ。」
女「えー全然驚かない!それにあたし、迷子じゃないわよう。お前が呼んだから来てやった
んだぞ!感謝しろ!」
男「あたしが、呼んだ?何を言ってるのかさっぱりだよ。あたしゃ歌を作ってるんだ。あん
たなんか呼んだ覚えはないよ。さっさと行っとくれ。それとも交番に案内すりゃいいのか
い。」
女「それだよそれ!」
男「わるいけど、それ、なんて言葉が通じる程、なげえ付き合いじゃあるまいし、内容は
はっきりしとくれよ。あたしゃ、歌を作るので忙しいんだ。」
女「それ!歌!」
男「歌?一体なんの?」
女「だーかーらー!歌の神様だよ!」
男「だれが?」
女「あーたーし!」
男「おまえさんが?歌の神様だってのかい?」
女「そーだよ!えらいんだよ!」
男「冗談は休み休み言っとくれよ。あたしはその手の冗談は嫌いなんだよ。」
女「あー!信じてないな!」
男「いい言葉がひらめくようにできるなら、さっさとやっとくれ。そうすりゃ信じてやる
よ。」
女「よーし!んんん、とりゃー!ーーどう?どう?ひらめいた?」
男「そんなんで閃いたら苦労しな・・・ん?ちょいとまちな。そうか、こうすりゃこうな
る、そんでこうか!」
女「えっへーん!どうだ!」
男「いや、今のは偶然あたしが思いついただけかもしれないじゃないか。もう一度やっとく
れ。そうすりゃ信じてやるよ。」
女「むー、しょーがないなあ、もう一回だけだからね!むーー、とりゃ!」
男「お、おお、こりゃすごい。どんどん言葉が湧き出てきやがる。」
女「どーだわかったか!えっへん!」
男「ああ、どうやら本当に歌の神様みてえだ。こりゃ驚いた。そんなもんが、この世に存在
するなんてねえ。信心深い心も、持っといて損はなかったってこった。」
女「この世には存在しないけどね!神様だからね!信じてもらえたことだし、あたしは帰る
ね~!じゃーねおじさん!」
男「ちょ、ちょっとまっとくれよ!」
女「どしたの?」
男「しばらくあたしんところに居てくれるんじゃないのかい?」
女「どして?いないよ?」
男「こんな中途半端に手ぇだして、せめてこの歌が完成するまでは手かしてくれるのが人
情ってもんじゃねえのかい。」
女「う~ん、別にいいけど、あたし神様だからね?」
男「ああわかってる。頼む!後生だからせめてこの歌の完成まではいとくれよ!」
女「神様だってことがわかってるならいいよ!じゃー歌を作ろう!」
男「おお、いてくれるかい!よし、善は急げだ。今日は徹夜だ、最高の歌ができるぞ!」
女「うん!がんばろー!」
――――――
男「う・・・ううん、ああ。なんだ、寝ちまったのかい。ああでも、いい歌ができた。こ
りゃあ、最高傑作だ。早く発表を・・・ここはどこだい。あたしの歌は?いやそれよか、あ
たしのウチじゃあない。こんな薄暗いところはしらねえ、ここはどこだい・・・」
女「おはよー。よく眠れた?いや、今も寝てるか。」
男「歌の・・神?」
女「いい歌ができたね。よかったよかった。」
男「い、いや、それよか、ここはどこだい・・・?今も寝てる・・?あたしゃ起きとる
よ・・・・。」
女「どこって―――そりゃ黄泉(よみ)だよ。黄泉の国。決まってるじゃん。」
男「黄泉・・・?あたしは死んだのかい・・・?一体どうして・・・」
女「どうしてって―――あたしを一晩も使うんなら命くらい必要だよ?わかってたんじゃな
いの?」
男「そ、そんなバカな話があるかい!死んじまったら、歌なんざ意味がねえじゃねえか!い
きけえらせておくれよ!」
女「そんなことできるわけないじゃない。あたしは歌の神。歌を作るしかできないよー。そ
れに、神様をタダで使えると思ってる方がおかしくない?」
男「そんな・・・それじゃあ、あたしは何のためにこの歌を作ったんだい・・・とんだ遺作
になっちまったよ。一度も歌ってねえ歌なんざ、空っぽの酒瓶みてえなもんじゃねえか。風
情もへったくれもありゃしないよ・・・」
女「んー、そんなに歌いたいの?」
男「あたりめえだ。歌ってのは歌うためにあるもんだ。死体の横に辞世の句として残すもん
じゃないんだよ。」
女「それじゃ、歌う?」
男「観客も無しに、こんなロウソクの灯りしかないとこでかい?」
女「あたしの劇場。」
男「劇場・・・?あの世に劇場があるのかい。」
女「お客さんいっぱいいるよ。みんな死んでるけどね。」
男「くっ、あっはっはっはっは!人生最後に命を喰われて作った歌を、死体相手に披露す
るってのかい!こりゃ傑作だ!くっくっくっく!」
女「やるー?」
男「ああ、やらせてもらおうじゃないの。これで歓声の一つでもあがらねえならあんたの所
為だからね。」
女「あたしの歌がそんなことになるわけないじゃない!大歓声ですたんでぃんぐおべーしょ
んでへっどばんきんぐよ!」
男「何言ってんのかわからねえが、そりゃ楽しみだね。この際だ。成仏するまで付き合って
もらうよ。死神。」
女「あら、バレてた?」
男「当たり前だよ。人の命を奪う神様なんざ、死神以外に何がいるってんだい。ま、死んじ
まったもんはしょうがねえ、だまくらかした分、楽しませてもらわねえと割に合わねえって
もんだ。」
女「んじゃ、死神興行がっぽり稼いでいこー!」
男「今度はあたしがこき使ってやるから覚悟しとくんだね。」
女「あー、そんなこと言うと成仏させちゃうから!」
男「2度も命奪うってのかい、簡便しとくれ。」
女「れっつごー!!」
おわり

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