死神の憂鬱
女「あーしんど。なんでこう、毎日毎日怒られないといけないの。もう無理。・・・死んじゃおうかな。楽に、なれるかな。」
男「こんにちはお嬢さん。」
女「うわ!変態!」
男「私は変態ではない。」
女「いや、ここ私の部屋だし、一人暮らしだし、勝手に入ってる時点で変態でしょ!」
男「私は死神だ。」
女「はあ?どう見ても・・・スーツ着たシブいオジサマ・・・やだ、割と好みの変態。」
男「変態ではない、死神だ。」
女「わかったわよ、もうなんでもいいわ。それで死神のオジサマは何しに来たの?私の命をとりにきたの?好都合だわ。さっさともっていっ
てよ。あんまり痛くしないでね。」
男「・・・君は死にたいのかね。」
女「そーよ。ってか、聴いてたから来たんじゃないの?死神設定のオジサマは。」
男「設定ではない、死神だ」
女「わかったわかったって。それで?」
男「なぜ死にたいのだね。」
女「なぜって、生きてる意味なんて無いからよ。いいことなんてなんにも無いし、辛いだけだもの。」
男「・・・どうしても死にたいのかね。」
女「なによ、死神だったら私が死んだほうがありがたいんでしょ?タマシイとかほしいんじゃないのあんた。」
男「君たちはひどく勘違いをしているのだ。」
女「勘違い?」
男「死神をなんだと思っているのかね。」
女「え?人のタマシイ集めたりとか食べたりとかそういうやつ?」
男「全くもって失礼極まりない。私達はあくまで管理しているだけだ。魂を正しく導くために。」
女「なんかどっちかっていうと、それって天使のイメージなんだけど。」
男「あいつらは生まれ変わりの管理だ。私達とは役割が全く異なるのだよ。」
女「ふーん、そうなんだ。で、そんな死神が私になんの用事?死ぬお手伝いじゃないの?」
男「・・・いい加減にしてくれ。」
女「は?」
男「死にすぎだと言っているのだ!一体どうなっている?君はまだ25歳だろう!早く死ぬ人間が多すぎる!」
女「・・・それが?」
男「私の役割を言ってみたまえ」
女「タマシイの管理?」
男「その通り。だが管理するにも限度がある!死神を何だと思っているのかね。無限の目も千の手も持っていない普通の神だぞ!」
女「あ、神様にも普通とかあるんだ。」
男「この際だから言ってしまうがね、すでに冥界はパンパンだ!普通に生きていれば100歳まで生きる人間が20や30でポンポンポンポ
ン死んでいるのだ!この平和な時代に!大規模な戦争も虐殺も宇宙人の侵略も無い!いたって平凡な時代のハズにも関わらず死ぬ人間が多す
ぎるのだ!」
女「・・・そんなに?」
男「君のような人間が多いということだ。そして決まって、魂の声はいつも嘆きだ。そこら中に順番待ちしている魂がこぞって嘆きの言葉を
出し続けるなぞ、気が滅入るにも程があるというものだ!」
女「あー・・・やばいかも」
男「わかるかね。つまり私は、君に死んでもらいたくはないのだ。死んで取返しのつかない後悔をするよりも、生きて取り返すことのできる
後悔をしたまえ。」
女「んー、でも生きててもつまらないし、彼もいないし・・・」
男「本当に何もないのかね?命は粗末にするものではない。」
女「死神にそう言われるとは思わなかったわ・・・あ、そうだ!」
男「何か思い出したかね?」
女「あなたよ、あなた!」
男「私が、どうかしたかね?」
女「私の彼になってよ!そしたら死なないわ!」
男「・・・私は死神なのだが」
女「いーわよそんなの。見た目は私好みのシブいオジサマだし。あなたに毎日会えるなら楽しみだもの。」
男「・・・毎日一緒にいるわけにはいかぬ、私もやるべきことがある」
女「お願い!夜だけでいいから!なんなら2時間、いや!1時間でいいから!」
男「・・・そのようなことで生きるというのかね。」
女「生きる!めっちゃ生きる!だから連絡先教えて!!」
男「・・・わかった。毎日の確約はできんが、なるべく来るようにしよう。」
女「よっしゃあ!じゃあLINE教えて!」
男「悪いが人間の通信手段は持ち合わせていないのでな。」
女「もう死のう、今死ぬ。どいて、飛び降りる。」
男「はあ、わかった、明日までに用意しておくとしよう。それまでは我慢してくれ。」
女「絶対よ!明日来なかったら無理だから!」
男「全く、死のうと思っていた人間とは思えないな。人間というのは本当に、理解できん。」
女「あー!幸せかも!もう死んでもいい!」
男「死なないでくれ!」
おわり