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「それでも日々は変わらず続く」

男1「おっす!俺は電車!!朝5時から深夜1時まで毎日飽きることなく走り続けている働きものだぜ!雨が降ろうが槍が降ろうが風が吹こうが雪が積ろうが!だいたいのことじゃ止まることが無い私鉄電車!今日も今日とて何千何万と暗い顔したリーマン供を腹に詰め込んで決められたレールを走り続けるぜ!その点では俺もリーマンもおんなじだな!がーはっはっは!つっても、いくら喋っても誰にも聞こえやしないがね!!今日もいい天気だぜーー!!!」

 

女1「死にたい。なんでこう世の中は理不尽なの・・・ありえない。私まだ入社して半年よ半年。金融のシステムなんて知ってるわけないじゃない。それを押し付けた結果案の定失敗して責任とれだのバカだの帰れだのお前がいなかったらうまくいっていただの。それでもあやまってさ。ごめんなさいって。もう失敗しませんって。バカみたい。私は会社の道具じゃないってーの。あーもう無理。・・・もう行きたくないな。・・・死んじゃおう。もうすぐ電車くるし。うん、飛び込んじゃおう。これで、楽になれるよね。」


男1「んっふっふーん♪今日も元気に枕木粉砕♪お客は寝ても車掌は寝るな~ってか。いやー、いつでも一人カラオケできるわ~。毎日がソロライブだわ~。ほらほら、ブレーキ甘いぜ旦那~たのむよ~」

 

女1「おかーさん、おとーさん、ごめんね。さよなら。」


男1「ふふふー・・・っておわああ!!!!こんな気持ちのいい朝に~!!!!!」


女1「・・・あー、すごい時間がゆっくり。これが走馬灯ってやつなのかな。なんかふわふわしてる。そりゃそうか。私落ちてる途中なんだもんね。運転手さんもビックリしてる。そうだよね、迷惑、だもんね。なんか考えずに飛び込んじゃった。でも、これで楽になれる。なんかいろんな音も聴こえるんだなー走馬灯って。不思議なかんかく・・・」


男1「なーーに言ってんのよお前~!!」

 

女1「・・・え?何?声!?誰!!?」

 

男1「俺だよおーれー!もうこのあと0.5秒後には前輪が血まみれになっちゃう張本人!!あーもうこんな気持ちのいい朝になんで飛び込むかね~!!電車の気持ちにもなってもらいたいわい!あーもう最悪だ!気持ちのいい朝が台無しだ!!そしてこの後数千人の人間の顔が今の10倍暗い顔になっちまうってんだ!!どうなるんだよ今の10倍って!!鬼か般若か貞子かみたいな顔になっちまうってんだよーー!!!!」

 

女1「う、うそ!?電車が喋ってる!!ってか走馬灯だよ今!私の走馬灯に勝手に入ってこないでよ!!もう疲れたの!死にたいの!!」

 

男1「うるせえ!!!俺が誰の走馬灯に入ろうが俺の勝手だろうがい!!それに普段聞こえてないだけでしょっちゅう俺は喋っとるわい!!あーもうこれだから人間ってやつは扱い辛い!!」

 

女1「うそ!?普段からしゃべってるの!!??ってか生き物じゃないでしょ!鉄じゃん!むしろ人に作られたじゃん!!」


男1「お前は八百万の神様もしらんのか!!!どんな物にも神様は宿るのだ!!毎日毎日勤勉に線路を走ってる電車の神様の前にまあしょっちゅうぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん身投げしてくれやがって!!血まみれなるわぐちゃぐちゃの内臓まみれになるわ最悪じゃい!!なんで人間ってのはそんなに命を捨てたがるのかね!世の中はこんなに面白いというのに!!!」

 

女1「やおよろずの、かみさま?あーなんか小さい時におばあちゃんから聞いた事ある気がする。・・・そっか。電車さんも大変なんだね。」

 

男1「俺だけじゃないってーの!どんな物にも宿るって言っただろうが!!お前の持ってるカバンにも着ている服にも神様は宿っとることもわからんのか!」

 

女1「え!?そうなの?」

 

男1「この俺みたいにしゃべくるタイプの神様はそういないんだよ。ほうれ、黙ってないで喋ってやれや。最後だぞ。」

 

女2「ご主人・・・つらかったんだね。」

 

男1「ほれ。」

 

女1「わわ、カバンがしゃべった!・・・ってことはスーツも?」

 

男2「あーあ、毎日若い女の子の体に密着できて幸せだったのに。」

 

女1「テメエ男かよ!!最悪!!」

 

男1「神に男も女もねえよ。」

 

女1「うーん、なんか複雑・・・そっかあ、私、いろんな神様に囲まれて生きてたんだね・・・バカみたい。もうちょっと、考えてみればよかった。」

 

男1「ほんとだよー全く。もう遅いっつーの。」

 

女1「うう、ぐす。もう、助からないの?私もっと生きたい。こんなに知らないことが多かったなんて。」

 

男1「無理無理無理ー!神様だって万能じゃねーのよ!助けたい気持ちはめちゃんこあるとも!でもほれ!!ちょっとずつ進んでるから!走馬灯つっても時間止まるわけじゃないからね!遅くなってるだけだからね!10秒で1cmくらい進んでるから!あと1mくらいしかないからね!どうしようもないってのよ!」

 

女1「そんな・・・うええ。死にたくないー・・・」

 

男1「これだから人間ってのは後先考えねえから」

 

女2「・・・大丈夫、僕が助ける。」

 

女1「カバンちゃん?そんなことできるの?」

 

男1「おいおいおいカバンー!!!」

 

女2「僕がなんかこう、ばーん!ってやってご主人を線路の外に飛ばすよ。怪我はするかもしれないけど、命は助かるよ。」

 

男1「ばばば、馬鹿野郎かお前はー!それは神様パワーを全部使っちまうってことだろうがー!!それじゃおめえ、消えちまうんだぞー!?消えちまったらもう終わりじゃねえかーカバンー!!」

 

女2「いいんだ電車さん。僕はすごく大事にしてもらったんだ。短い間だったけど、手入れもしてもらってたし、粗末にも扱われなかった。とても感謝してるんだ。それのお礼だよ。」

 

男1「おめえ・・・そんなにその人間のことを・・・」

 

女1「カバンちゃん・・・私、生きるよ。もう死のうだなんて思わないよ!ありがとうカバンちゃん!!」

 

女2「うん。ぜったいだよ。それじゃ、さよならご主人。」

 

男1「うおおおおカバンーーーお前ってやつはーーー!!!!」

 

女1「カバンちゃーーーん!!!」

 

 

 

・・・・・・

 

 

男3「ん、目が覚めたかい。」

女1「ここ、は?」

 

男3「病院だよ。しかし驚いた。まさかちゃんと人間の形で生きているなんてね。」

 

女1「どう、いうことですか?」

 

男3「君、電車に飛び込んだだろう。普通はスーパーに並んでるひき肉みたいになっててもおかしくない。それがなぜか、線路の外まで飛ばされてたんだ。かすり傷と、軽い脳震盪程度でね。まるで何かに押し出されたように。覚えてないのかい?」

 

女1「・・・そう、なんですね。あの、私のカバン、落ちてませんでしたか?」

 

男3「カバン?いや、何も落ちていなかったと聞いているよ。持っていたのかい?」

 

女1「いえ・・・無かったなら、いいんです。」

 

男3「・・・そうか。今日はゆっくり休むんだよ。せっかく助かった命だ。そこの窓から飛び降りる、なんてことはしないでくれよ。ではまた後で。」

 

女1「・・・カバンちゃん、助けてくれたんだね。ありがとう。私、生きるよ。もっといろんなことをしてみるよ。もう自分だけの命じゃないんだもんね。うん。頑張って生きる。楽しんで生きる。・・・神様たち、ありがとう。」

 

男2「あーこれでまた若い女の子の体が堪能できるわー」

 

女1「って!お前はしゃべれんのかーーーーい!!!」

 

男2「まじうける。」

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