再開
男「久しぶりだな勇者よ。」
女「久しぶりだね魔王。」
男「調子はどうだね。」
女「まあまあよ。あなたはどうなの?」
男「まあまあといったところだ。」
女「そう。それはよかったわね。」
男「ああ、相変わらず人間どもはクズばかりだ。下手に力を持っている所為で、弱者をおとしめ、自然を破壊し、我が物顔で世界を破滅に導
いている。何故あんな生き物がこの世に存在しているのか甚だ疑問を覚える。」
女「そうかしら?私はそうは思わないわ。人間だって悪い人ばかりじゃないわ。むしろ少数派。大勢の人が自然を愛し、文明を発展させよう
と一生懸命よ。あなたはごく少数の人しか見ていないだけ。」
男「何を馬鹿な事を言っている。たとえ少数だったとしても、多くの人間が御し切れていないではないか。そのような無能な種族など滅んで
当然であろう。」
女「否定はしないわ。でもそれはあなた達、魔族も同じでしょう。弱きものを従え、強きものが君臨する理不尽な世界。人間と何が違うのか
しら?」
男「全く違う。勇者よ、まったくわかっておらん。魔族というものは強者が弱者を従えることが唯一のルールなのだ。起こり得るのは競争と
統治。そして一番上に上り詰めた者が全てを決める。そこに反論も文句も起こり得ないのだ。」
女「それが同じだと言っているのよ。」
男「いいや違う。人間は弱者であっても上に立ち、無能であっても統治する。その結果どうなっているか。わからない人間ではないだろう、
勇者よ。」
女「だからと言って滅ぼされる理由にはならないわ。それに、人々が保身を考えるのは魔族の支配におびえているからなのよ。あなたが原
因。」
男「他からの干渉があればこそ本性が発揮されたのだろう。人間という種族の浅はかさ、愚かさが浮き出してきただけではないか。醜い種族
よ。貴様らが地上にのさばっているのには我慢ならん。すぐに滅ぼしてしまいたいくらいだ。」
女「いつも本性しか出さないあなたたちに言われたくは無いわね。殺すか生かすかしか選択肢が無いの?この脳筋。」
男「暴力的な理論を押し付けてくるのはお前の方だろう。平和ボケ勇者。」
女「・・・なかなか言うじゃない。」
男「それだけ魔族が優秀だということだ。全く、何故このようなことになってしまったのか。」
女「それはこっちが言いたいわ。私だってね、言いたいことはたくさんあるのよ?私は人間なの。あんな腕が4本あったりゲル状の身体して
たり身長が20mもあるような化け物ばっかりを相手にする私の気持ちがわかる?」
男「優秀な魔族ではないか。何が問題なのだね。」
女「ああ優秀でしょうね。おかげで毎日毎日戦いの日々よ。あんたが作り上げた魔族の社会。ホントに力じゃないと従わないもの。平和ボケ
というより戦争ボケよ。他の事が考えられなくなるわ。」
男「これだから人間というものは杜撰で愚かなのだ。力さえ示せば従うというのに、平和的解決を望もうとする。逆らうなら殺してしまえば
いいだろう。実にシンプルだ。何故そこまで複雑に考える。」
女「人間は複雑なことを考えられるから文明を築けるのよ。暴力しか知らない魔族とは違ってね。」
男「力の使い方すら忘れてしまった人間風情が何を言う。貴様ら頭でっかちには到底世界の統治などできんだろうな。」
女「・・・ああもうわかったわよ。いつもこうなんだから。」
男「お互い様だと言っておこう。ここまで噛みあわない相手もそう居るまいよ。」
女「ホントそうね。・・・で、そっちはどうなのよ。挨拶代わりの軽口にしては長引きすぎでしょ?」
男「それは同意だ。我にかかればたやすい―――と言いたいところだが、こうも扱いづらいとはな。殺してはいかんのか。」
女「当たり前でしょ。そういう契約なんだから。それに私も殺してないでしょう。」
男「そっちは別にかまわないと何度もいっているだろう。」
女「うるさい。それじゃ意味ないのよ。」
男「全く。確かに我は一度お前に敗北したが、なぜこのような面倒なことをしたがるのだ。しかもわざわざ血の契約までしてだ。」
女「それが一番いいと判断したからよ。」
男「これがかね。」
女「そうよ。」
男「人間の世界を魔族が統治し、魔族の世界を人間が統治する。お互いの性質を知る事によって、本当の平和へと近づく。」
女「なによ、悪い?」
男「いいや。契約に従うとも。それが我を倒した勇者の望みならば。」
女「私だって、こんなに大変だと思わなかったわよ。あんのクソ魔族ども。」
男「いつでも元に戻してよいのだぞ。そうすればまた人間と魔族は切り離される。」
女「駄目よ。それはまた争いを生み、戦争を引き起こすわ。」
男「仕方あるまい。ではまたしばらく、ゲームに興じるとしよう。」
女「そうね、私は命がけのゲームですけどね。」
男「自分で選んだ道だろう。」
女「・・・ま、いいわ。それじゃ、また1年後に会いましょう。次こそは、平和な世界でね。」
男「ふははは。我も精々、平和とやらにする努力はしてみよう。」
おわり