【アリとキリギリス】
ナレ:ミュージシャンを目指して日々バンド生活をしているキリギリスと、趣味を捨て毎日深夜残業休日出勤を繰り返す社畜アリが久しぶりに居酒屋で飲むところからこの皮肉な物語は始まるのだ。
男1,2「「せーの、かんぱーい!」」
男1「よー久しぶりだなアリ!」
男2「お前は元気そうだなキリギリス。」
男1「あったりまえよ!ギタリストは元気無いとアピールできねえしな!」
男2「そっかー、なんか楽しくやってるんだなーキリギリスは。」
男1「何いってんだよ!お前だってがっぽがっぽ稼いで楽しくやってんだろ?」
男2「金はな、確かに増えてるな。うん、金は増えてる。間違いない。」
男1「だろ?俺みたいな貧乏生活とは段違いな生活送ってんだろうなーうらやまー」
男2「・・・はぁ。」
男1「んー?どうしたどうした、溜息なんかついてよ。」
男2「いや、まあ確かに貧乏ではないけどさ。」
男1「じゃーいーじゃん。何が不満なのよ、俺にぶっちゃけてみ?」
男2「使えないんだよ。」
男1「何が?」
男2「使う暇が無いんだよ。お金。」
男1「使い切れない?何贅沢なこと言ってんだよ自慢?自慢かこの~」
男2「ちげーよ!使い切れないんじゃないくて、使う時間が無いの。平日は帰るの終電だし、土日も休日出勤が多いし休みでも疲れて寝て
る。」
男1「うわーマジかよ。それってまさか有名な社畜ってやつ?」
男2「そのまさか。ほんとにもーやってらんないよ。毎日毎日忙しいにもほどがある!」
男1「でもあれだろ?今だけなんだろ?」
男2「そうなのかな~。忙しい時期だとは思うけど。」
男1「そうだってきっと。そんなずっと忙しい会社なんてあるわけないだろ普通。」
男2「そっかな~。でも早く帰った記憶が無いんだけど」
男1「ストレス発散とか何してんの?俺もたまにストレスたまったら発散してるぜ。ライブで失敗したりした時な。」
男2「ストレス・・・発散?」
男1「おう。カラオケ行ったり、バッティングセンターで打ちまくったり。趣味に没頭するとか。」
男2「カラオケなんていったら次の日起きれないし、バッティングセンターが開いてる時間は仕事してる。趣味は、―――無いな。」
男1「・・・それ大丈夫なのか?」
男2「どうなんだろ。なんかストレスたまりすぎてなにも感じなくなってきた感ある。」
男1「アリってそういうとこあるよな。組織に捕らわれるっつーか。縛られるっつーか。」
男2「長時間労働の上に肉体労働だからなー。しかも命の危険もあるし。超絶ブラックだわ。アリだけに。」
男1「全く笑顔じゃねえお前にジョーク言われても笑えねえよ。でもみんな同じなんだろ?俺みたいに自由にやってるやつとかいねえの?」
男2「あー、攻撃的なやつとかはけっこう自由にやってるみたいだな。赤アリとかシロアリとか。毒もってるやつはやりがいあるって言って
たわ。仕事楽しいって。」
男1「噛みつかれると死ぬもんな。俺は会いたくねーけどやっぱ爽快なのかね。」
男2「それに比べ、俺んとこは落ちてるもんの回収作業ばっかり。考えることなんて帰社ルートくらいだよ。爽快感のかけらも無い。」
男1「そっかー。んじゃやめちゃえば?俺みたいに自由に好きにやって、夢作って目指すのも楽しいぜ!」
男2「夢か~。それもいいかもな~」
男1「だろ?一緒に武道館めざすか?なんてな!ははは!」
男2「そーだなー。ちょっと考えてみるわ~」
男1「おー!また飲もうぜ!」
ナレ:そして半年後
男2「あ、もしもしキリギリス?アリだけど」
男1「おー、久しぶりだな。どした?」
男2「飲みに行こうぜ!俺仕事辞めたんだ!夢目指そうと思ってな!」
男1「え、仕事やめたん?」
男2「そーなんだよ。だからさ、とりあえず飲みにいこうぜ。いつでもいいからさ。」
男1「あー、悪い、今忙しいんだわ。」
男2「あ、そーなんだ。バンド?」
男1「いや、仕事。」
男2「・・・え、仕事?」
男1「言ってなかったっけ?なんか急に冷めちゃってさ。バンドやめて普通に働いてるわ。」
男2「え・・・まじで?」
男1「おー。まあそんな感じだわ。そっちも頑張れ~応援してる。」
男2「あ、ああ、ありがと」
男1「んじゃなー」
プッ(電話切れる音)
男2「・・・さて、就職活動するかな。」